ずっと封じられていた魂の片割れを取り戻してから、明らかに変容した月夜を月読たちが噂するようになった。
――朱雀帝の再臨。
十六夜が顔布をしなくなってから、二人の顔が似ていることも隠しようがなくなり、ことさら麗しく神々しい気を纏った月夜に、誰もが従順さを示していた。
ともすれば、帝以上に。
正直それは、本人の望むところではない。
「ただ私にできることは、この国のためにナーガとの国交を結ぶ役目を担うことくらいでございます」
深々と頭を垂れて、月夜は心の焦燥をひた隠した。
十六夜とは、今では距離を感じるようになってしまった。
果たしてその意識は冥蘖のものなのか、十六夜のものなのか。
それは月夜にもわからなくなるほど混沌としている。
しかしそれでも、彼が十六夜であることに違いはない。
たとえ心が通じあわなくとも。
あの頃のように慕ってはくれなくとも…。
「そうか……月読たちも、そなたについていきたがっておったが、あちらはそなたしか入国を許可してはくれなんだ。じゃが、必ずや無事に戻ってくるのじゃぞ?」
「……はい。必ず、ナーガとの道をつなげてまいります」
顔をあげ、十六夜を真っ直ぐに見上げた。
その顔をしっかりと目に焼きつける。
思わず熱くなるまぶたを伏せ、月夜は足早にその場を離れた。
堪えきれず、一粒の涙が頬を滑り落ちた。
――馬鹿。こんなところで泣くなど、おかしいだろう!
大きくため息をついて、気を落ちつける。
すぐに眼は乾いたが、気を緩めると揺らぎそうな自分を必死で抑えていた。
側使として使っていた部屋は整理してきた。
白童のものも、自分の私物もすべて処分して、何も持たずに出てきた。
この先、ナーガから戻る場所はないのだ。
この世のどこにも――。
――朱雀帝の再臨。
十六夜が顔布をしなくなってから、二人の顔が似ていることも隠しようがなくなり、ことさら麗しく神々しい気を纏った月夜に、誰もが従順さを示していた。
ともすれば、帝以上に。
正直それは、本人の望むところではない。
「ただ私にできることは、この国のためにナーガとの国交を結ぶ役目を担うことくらいでございます」
深々と頭を垂れて、月夜は心の焦燥をひた隠した。
十六夜とは、今では距離を感じるようになってしまった。
果たしてその意識は冥蘖のものなのか、十六夜のものなのか。
それは月夜にもわからなくなるほど混沌としている。
しかしそれでも、彼が十六夜であることに違いはない。
たとえ心が通じあわなくとも。
あの頃のように慕ってはくれなくとも…。
「そうか……月読たちも、そなたについていきたがっておったが、あちらはそなたしか入国を許可してはくれなんだ。じゃが、必ずや無事に戻ってくるのじゃぞ?」
「……はい。必ず、ナーガとの道をつなげてまいります」
顔をあげ、十六夜を真っ直ぐに見上げた。
その顔をしっかりと目に焼きつける。
思わず熱くなるまぶたを伏せ、月夜は足早にその場を離れた。
堪えきれず、一粒の涙が頬を滑り落ちた。
――馬鹿。こんなところで泣くなど、おかしいだろう!
大きくため息をついて、気を落ちつける。
すぐに眼は乾いたが、気を緩めると揺らぎそうな自分を必死で抑えていた。
側使として使っていた部屋は整理してきた。
白童のものも、自分の私物もすべて処分して、何も持たずに出てきた。
この先、ナーガから戻る場所はないのだ。
この世のどこにも――。

