――せ…つ!

 大きな存在感に突き上げられ、悶え叫んだ。
 彼で満たされた月夜の中心は、今にも弾けてしまいそうだった。
 叉邏朱を身の内にした刻以上の衝撃と衝動。
 すべてが想像を越えて、月夜に迫ってくる。

「月……わかるか? お前の中から、新たな光が生まれる。無垢な魂だ……もとの人間には戻れないが、これでもう魔物になることもない」

――あ…あ…何かが…っ

 雪の教えた通り、月夜の体内から滴るように、光の雫が産まれいでた。
 直後、わずかな記憶と寂寥感を残して、身体から彼の魂が抜けでていく。
 雪が月夜のために、己から生まれたもので阿修羅を再生した刻の記憶。

「お前なら、俺よりうまくできる。信じろ……」

 月夜は肉体を通じてつながるイシャナの魂を、その手に呼び寄せた。
 消え入りそうな輝きを、生まれたばかりの光で包み込むと、卵をあたためるように胸に抱く。
 それがひとつに混じりあうのを、手の中で感じた瞬間、月夜は果てしない幸福に満たされた。

――イシャナ。生まれ変わって、今度こそその手でナーガを救え。

『月夜様』

 誰かに呼ばれた気がした。
 目を開いた月夜は、腕の中にある小さな命を見つけた。
 弾かれたように産声をあげる赤子の髪は蒼白だった。
 きっとその瞳は、人懐こい青緑色をしているのだろう。
 熱いものが頬を伝う。
 悲しいのか、嬉しいのかわからない涙だった。
 ガルナの行く末を思えば不安が余りある。
 ふたたび奪いあう戦いが起きるかもしれない。
 しかし一方ではこうも思った。
 1000季前、朱雀帝がしようとしたことを、叶えられる好機かもしれない。
 神のいない国のはじまり。

――いや。神が望む国のはじまりだ。