雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 目まぐるしく再生されていく映像が、月夜を取り囲むように迫ってきた。
 自分の今いる場所もわからない。
 身体は在るようで無い魂だけの姿で、ただ飛び込んでくるものが、欠けた部分を埋めていくのを感じていた。
 はじめて見た天上の光。
 月夜は何者でもない存在で生まれた。
 ミトラという魂から溢れた光の雫。
 それが月夜だった。
 それは異なる魂が重なり合う衝撃で飛散する生命の欠片。
 欠片は光を浴びて成長し、やがて傍にあるものに同調し姿を変化させる。
 神は神に、精霊は精霊に、人間は人間に。
 ミトラの傍にいた月夜は神の姿を纏った。

『インドラがこれを知れば、人間を忌み嫌うあの方のこと、必ずこの子を奪いにくるであろうな。なによりヴィシュヌ(須佐乃袁)の系譜ともなれば、その力は封印を解く鍵にもなる。1000の刻を……待ち続けたのだから』

 美しい神は哀しげな瞳で月夜を見下ろす。

『おまえをこんな形で手離すことしかできない私を、どうか許しておくれ…いつか、この手にふたたび抱きしめる刻が来ることを…信じているぞ』

 月夜は神の記憶と魂の半分を、何者にも悟られない場所へ隠匿された。
 人間として、生きるために。

『そなたが余の神の子か……なんと、これで黄色の髪なら十六夜に、黒髪なら冥蘖に似ておる。まるで三つ子じゃのう。余と同じ瞳の色は、唯一そなたが人でもある証じゃな……月。いや……そなたは今から月夜じゃ。月は貴い名……夜は王族だけに許された字。月夜……余は嬉しいぞ。歴代で子を3人ももうけた帝は、余だけじゃ』

 そう云って笑った前帝のまなざしも、美しい紅の瞳だった。
 顔布をおざなりにして、よく白童にたしなめられていた帝は、十六夜のように朗らかな人物であったのだ。