雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 よく見れば、男の顔にどこか、ひっかかるものを感じた。
 記憶にはないが、既視感のような感覚が胸に湧く。
 これと似た光景を、月夜は知っている気がした。

「どうした? あいつが欲しいんじゃないのか?」

 ほんのわずかな沈黙を迷いだと見切った男は、月夜を見て目を細めた。
 その視線が、早くしろ、と急かしてくる。

「魂を……どうやればできる?」

 思わず選んだ選択肢は、なぜかこれまでのすべてを否定するような方法だった。
 自分でもわからないが、いまはそれが一番相応しいような気がした。

「……まずは気を鎮めろ。肉体ではなく、心であいつに触れ強く望め……”お前が欲しい”と」

 耳のすぐ傍で、低くしかしはっきりとささやかれ、思わず心臓の鼓動が乱れる。
 まるで、自分が”欲しい”と云われたように錯覚してしまった。

――馬鹿、ボクはなにを…。

 ドキドキと高鳴る胸をなんとか抑えながら、月夜は云われた通り、精霊にむかって神経を研ぎ澄ませた。
 雑念を払い、目の前のそれだけに”心”を飛ばす。
 気がつくと、月夜は魂のような姿で精霊の眼前に立っていた。
 不思議と驚きはなく、寧ろ肉体から解き放たれた解放感に、ホッとしていた。

「そうだ…そのままそれに触れろ。もう、抗うことはない」

 耳元でまたもや男のささやきが聴こえた。
 しかし肉体から離れたいま、脈打つ心臓のない月夜は、かわりに全身が熱くなるのを感じた。

――あ……っ。

 これまで感じたことのない感情が、一気に沸き上がった。
 懐かしいような、寂しいような、そして切ない…そんな気持ち。

「強く求めろ」

――お前が、欲しい!