雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「月夜殿。貴方にはそうしてもらわねばならない。これも帝の、延いてはガルナを救うため!」

「天照様……」

 躊躇う月夜に、イシャナが眉尻を下げて云った。

「俺と逃げて貰えへんのなら、俺ができるんはもう、これだけや……」

 月夜たちを助けたことによって、恐らくナーガにとっては都合の悪い事態に陥っただろうに、イシャナが選んだのは、それでも人間側につくことだった。

「敖広!」

 かけ声と共に目の前の地面が盛り上がり、波間を進む巨大魚のように帝釈天へとのびていく。
 それは段々と高さを増し、ついに現れた式が神を襲った。

「――そうか。わかった」

 呟いた帝釈天の手が、埃を払う動作で敖広をあっさりと退ける。

「月夜様、行くんや!」

 イシャナの決死の表情に、月夜は彼の方へと踏み出す。

――だめだ。彼にこんなことをさせてはいけない!

 しかし繋いだままの手に引かれ、月夜は十六夜を振り返る。

「十六夜、彼は……イシャナはナーガの……見捨ててはいけない。ガルナのことは彼には関係ないんだ!」

「八咫!」

 ゆっくりと近づく帝釈天を阻止しようと、天照も式を繰り出すが、神の力には到底及ばない。
 みるみるうち、イシャナと天照に疲労の色が増していく。

「なにをしている、はやく帝を!」

「はよ逃げるんや!」

 月夜は弱々しく首をふる。
 十六夜を守りたい。
 だが、イシャナを犠牲にすることなどできない。

「……叉邏朱!」

 月夜は叫んでいた。
 月読の召喚術も無視して、叉邏朱は光の矢のように姿を現した。
 その背に、十六夜を乗せて囁く。

「十六夜を隠して……ボクがいいと云うまででいい」

 叉邏朱は悲し気な声をたてた。