雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「余の傍にいてくれるか? あの花のこと……忘れてなどおらぬ。そなたも、余の幸せを祈ると云ってくれた」

「――十六夜っ」

 月夜は十六夜に飛びついた。
 間違いなく十六夜だ。
 冥蘖とどんなことがあったにしても、いま目の前にいるのが十六夜であることは疑いようがない。
 一瞬でも彼を恐れた自分を、月夜は悲しいと思った。
 けれど、なぜこんなことになってしまったのか?
 十六夜と冥蘖にいったい何があったのだ。

「そろそろ茶番は終いじゃ。ガルナ帝、はじめにゆうた通り、大人しく鍵を差し出せば国は滅ぼさずにいてやれるが、まだ首を縦にしないつもりか?……まぁ、どちらにしろ鍵はもらってゆく。抗うというなら、その命もろとももらい受けよう!」

 帝釈天の手が高々と挙げられるのを合図に、天が唸りをあげた。
 稲妻が生き物のごとくうねり、その手に蛇のように巻きつく。
 まぶしい光を纏った腕を薙いだ途端、稲光が十六夜を襲った。

「十六夜!」

 月夜は反射的に動いていた。
 十六夜を巻き込んで、地面に倒れる。
 間一髪で雷は足元を焼く。
 しかしすぐにまた、第二撃が放たれる。
 立ち上がり、十六夜の腕を引いて逃げるが、第三第四とまるで遊ばれているようだった。

「あっ……」

 脚をもつれさせた十六夜の手が、月夜の手から離れる。
 追撃はそこまで迫っている。
 間に合わないと知りながら、懐の白紙をつかんだ瞬間、目の前に影が立ちはだかった。
 影から放たれた何かが稲妻を粉砕し、辺りを昼のように照らした。

「……イシャナ」

 驚いたことに、動くなと命じられ微動だにしなかった彼が、月夜たちを助けるために帝釈天と対峙していたのだ。