雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 つじつまの合わない推測で月夜は混乱した。
 何をどう考えればよいのか、何かが足りないために結論にたどり着けない。
 けれど一番わからないのは、月夜自身が目の前にいる十六夜を、十六夜以外には認められないことだった。

――間違いなく、いまボクが見ているのは十六夜だ。そう感じるのに、どうして?

 阿修羅が叢雲に気をとられているうちに、部屋の扉を破り八咫が外へ飛び出した。
 傍にいた近衛が煽りをくらい気絶する。
 くちばしから逃れようと月夜は抗うが、しっかりとくわえられて逃げるのは容易ではなかった。

「大人しくしておれ、月夜。でないと、神の前にお前を落としてしまうではないか」

 どちらにしろ、月夜は神のための生け贄にされる。
 そう思えば、どっちもどっちだ。

――待て。じゃああの鍵は、いったいなんのためにあるんだ?

 白童から託された物を鍵だと信じていた月夜は、さらに疑問を募らせる。
 帝釈天が月夜を指して鍵だと云ったなら、雪は拾った鍵ではなく、月夜を鍵だと知っていて、守ったことになる。

――なんだ……みんな、ただ神を手に入れたいだけなんだ。そのための争いはもう……はじまってたんじゃないか。

 宮殿の奥から中庭を抜け、暁天宮につづく謁見の間を目指した十六夜の前に、なにかが飛び出してきた。

「何者だ……!」

 十六夜にはわからなかったようだが、月夜にはその影がすぐに判別できた。

「逃げたのでは……なかったのか」

「月夜様、残念ながら俺は諦めの悪い男ですんや」

 そう云って自慢気に笑みを浮かべたイシャナの頭上で、風が渦を巻いた。

「そこのお人は、帝……でっか?」

 ピクリと十六夜は反応したが、答えず後ずさった。