雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「いい……よ、十六夜」

 月夜は全身から力を抜いた。

「十六夜が、そうしたいなら……ボクを好きにして、構わない……だって十六夜はボクに百月想をくれた……だから、信じてる」

――これにはきっと、理由がある。

 月夜はそっと目を閉じた。
 気配が、何かを待つようにひそめられて、ようやく言葉を発した。

「百月想……? ああ、そこらに咲いておる雑草のことか。それがどうした? そんなものに、なんの意味がある」

 まるで別人のように応えた十六夜を、月夜は驚いて見上げた。
 その瞬間、月夜の中に生じはじめていた矛盾が、はっきりと見えてきた。

「本当に……十六夜なのか?」

 逢う度に、昔とは違う姿を見せるそのことを、月夜は無理矢理自分に納得させてきたが、よく知る彼の性格からすれば、よもやそのように言葉を裏返すなど、考えられぬことだった。

「……なにを云うておる? 余は帝……そなたの絶対君主。疑うことなどどこにある?」

 息がかかりそうなほど近く、十六夜は顔を寄せた。

「ならなぜ、そんなことを云うんだ? ボクのしあわせを祈っていると……云ってくれたのに――」

「そなたのしあわせ? もちろん、余のモノになれば叶うぞ。そなたが余とひとつになり、神を目覚めさせることが出来れば、四神の国を我手に入れる力を得られる! 世界は余の意のままになる!」

「そんな……」

 月夜は言葉を失い、愕然と十六夜に目を奪われていた。
 まさかそんな思惑があったとは、信じたくもなかった。
 これが本当に、あの十六夜だと云うのか?
 こんな恐ろしいことを考える人間が……!

「違う……十六夜じゃない、こんなのは……ボクの十六夜じゃないっ」

 月夜の叫びに、十六夜は気が違ったように笑った。