雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「逃がす……って、なにから? ボクは十六夜を置いてどこにも行かないよ」

 十六夜は何度も首を振った。

「そうではない! 余が……余は、そなたを――」

「十六夜…」

 いきなり黙り込んだ十六夜を気がかりに思い、顔布越しの瞳を覗き込む。
 それはただ一点に向けられていた。

「十六夜……訊かせて欲しいんだ」

 真っ直ぐな眼差しが、微かに揺れる。
 静かにその手に手を重ねた。

「十六夜は知っていたのか? ボクのこと……ボクが、拾われたんじゃなくて、預けられたんだということ……」

 月夜の言葉に、十六夜が顔をあげる。

「白童様のような方が、拾った子供を……ボクのような、得体の知れない子供を育てる。いくら帝の勅命だとしても、なんの根拠もなくそんなことをするなんて考えられない。だとすれば可能性はひとつ……白童様もしくはその近しい人間と、何らかの関係にある相手から、ボクを預けられた」

 微動だにせず、十六夜は月夜を見つめていた。

「どんな理由かはわからないけど多分……その相手というのは……人間では、ない」

 重ねた手に、自然と力が入った。

「おそらく帝も承知のうえで、いや……何か目的があって、ボクを傍においたのか?」

 不意に、十六夜の唇が笑みの形に歪んだ。

「……やはり、そなたは勘がよいな」

 先刻までの弱々しげな印象は、どこにも残されていなかった。
 握り返された手が、十六夜の唇に触れる。
 顔布の下で瞬いた瞳が、妖しく揺らいだ。

「いざ……」

「そなたの云うた通り、帝はわかっていらした。そなたが何者かということも、なぜガルナに預けられなくてはならなかったのかということも」