目の前で、轟音を響かせ強風が渦を巻いた。
かと思うと、いきなり何者かがドンと地に脚をつく。
一瞬それを、自分を迎えにきた冥府の神が、風と共に舞い降りたのだと思った。
その山のような身の丈と巨大な背中、無造作にうねった髪は漆黒の闇に溶け、身体中からほとばしる異常なほどの威圧感はしかし、別のなにかを彷彿とさせた。
月夜は呆然としながら、突如現れた巨人を見上げる。
その何者かは、月夜に背を向けたまま片手をあげ、まるで書物の頁でもめくるかのような仕草で、襲いかかってきた精霊の動きを封じ込めた。
――すごい…この者はいったい。
しかしそれを確かめる前に、急に目の前が暗くなる。月夜は必死に意識を保とうと抗ったが、不覚にも時機をつかみ損ねた。
全身から力が抜けていき、とうとう月夜はその場にくずおれた。
誰かが、名前を呼んだ気がした――。
目をあけると、そこは先刻までいた場所ではなかった。
なぜか景色がいつもより低く見渡せた。
周りの物が、やたらと大きく見える。
月夜は目線を足元まで下げて、それがなぜかわかった。
脚が、身体が、腕も手も、小さく縮んでいた。
「月……」
その声に、弾かれたように顔をあげる。
月と呼んだ主は、すぐそばにいた。
心臓が、トクンと鳴る。
見上げた大きな影は、屈むと月夜の頭に手を置いた。
「 !」
月夜はたしかに誰かの名前を呼んだ。
けれどそれは、なぜか声になっていない。
しかし呼ばれた主には伝わったのか、大きな手に優しく撫でられる。
――誰だ…?
顔を見ようとしても、視界がぼんやりとして、よく見えない。
でも、優しいまなざしを湛えた、自分と同じ瞳の色だけが、月夜にははっきりとわかった。
――あなたは…誰だ?
かと思うと、いきなり何者かがドンと地に脚をつく。
一瞬それを、自分を迎えにきた冥府の神が、風と共に舞い降りたのだと思った。
その山のような身の丈と巨大な背中、無造作にうねった髪は漆黒の闇に溶け、身体中からほとばしる異常なほどの威圧感はしかし、別のなにかを彷彿とさせた。
月夜は呆然としながら、突如現れた巨人を見上げる。
その何者かは、月夜に背を向けたまま片手をあげ、まるで書物の頁でもめくるかのような仕草で、襲いかかってきた精霊の動きを封じ込めた。
――すごい…この者はいったい。
しかしそれを確かめる前に、急に目の前が暗くなる。月夜は必死に意識を保とうと抗ったが、不覚にも時機をつかみ損ねた。
全身から力が抜けていき、とうとう月夜はその場にくずおれた。
誰かが、名前を呼んだ気がした――。
目をあけると、そこは先刻までいた場所ではなかった。
なぜか景色がいつもより低く見渡せた。
周りの物が、やたらと大きく見える。
月夜は目線を足元まで下げて、それがなぜかわかった。
脚が、身体が、腕も手も、小さく縮んでいた。
「月……」
その声に、弾かれたように顔をあげる。
月と呼んだ主は、すぐそばにいた。
心臓が、トクンと鳴る。
見上げた大きな影は、屈むと月夜の頭に手を置いた。
「 !」
月夜はたしかに誰かの名前を呼んだ。
けれどそれは、なぜか声になっていない。
しかし呼ばれた主には伝わったのか、大きな手に優しく撫でられる。
――誰だ…?
顔を見ようとしても、視界がぼんやりとして、よく見えない。
でも、優しいまなざしを湛えた、自分と同じ瞳の色だけが、月夜にははっきりとわかった。
――あなたは…誰だ?

