雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 近衛たちが低頭する宮殿の廊下を、息を整えながら十六夜の寝室へと進む。
 もう何度も、こうして十六夜のもとへ訪れたが、それも最後にせねばならない。
 胸の奥で、およそはっきりと形になりつつあるものを、月夜は掴みかけていた。
 あくまで予測に過ぎないが、いつまでも結果を恐れて予測のままにはしておけない。
 こうなってしまった今、月夜は選ばなければならなかった。

――十六夜をとるか、国をとるかと問われれば、ボクは……。

 答えはわかりきっている。
 だが、国がなくなれば十六夜にも影響するのは避けられない。

――独りになることを、あんなに怖がっていたのに、ボクが残してあげられるのはこれしかない…。

 寝室の扉には、二人の近衛が張りついていた。
 十六夜を守ると同時に、どこに逃げ出すこともできない。
 彼はまだ、部屋の片隅で、己の宿命と戦っているのだろう――。

「月夜様。帝が、貴方様がきたらお通しせよとの仰せでした。どうぞ中へ」

 意表をつかれ、月夜は僅かに緊張を示した。
 扉をくぐると、奥の寝間へ続く一間に入る。
 気配に気づいたのか、奥で音がした。
 月夜は寝間に近づいた。

「十六夜? 来たよ、大丈夫なの……」

 陰から飛び出した何者かが、月夜に襲いかかった。
 驚いてよく見ると、それは十六夜だった。
 冠が落ちそうになるのも構わず、月夜にしがみついてくる。
 そっとそれを受け止め、冠をなおした。

「顔が見えてしまうよ、十六夜……よかった。元気そうで」

 背中を優しく撫でると、十六夜が顔をあげた。

「どうして……どうして戻った? 余はもう……そなたを逃がしてやれない」