雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「また、お前はいきなり……」

 抗議の声をあげる月夜の肩を掴んだ雪は、ズイとイシャナの前に進み出た。

「これ以上余計なことを喋るつもりなら、その口二度と開けなくしてやろうか」

「おいっ、なに脅してる――」

 月夜がとめるよりも速く、イシャナが雪に飛びかかっていた。
 しかし、あっさり弾き返されたその身体が地面に叩きつけられる。
 反射的に雪が手を挙げた。

「やめろ、雪!」

 それを阻止しようと、雪の前に飛び出した月夜は腕を掴んだ。

「離せ。こいつは邪魔だ」

「駄目だ! 関係のない人間を殺してなんになるっ」

「……月夜……様っ」

 這いつくばったままのイシャナが、咳き込むように呻く。

「イシャナ、もう行け! お前がここにいても、無駄に命を縮めるだけだ。ナーガに帰れっ」

「月夜様……俺は……」

「はやく行け!」

 雪が殺気を孕んだ睨みをきかせると、イシャナはヨロヨロと立ち上がり、渋々後ずさった。
 月夜に未練めいた眼差しを向けながら、ふたたび闇の中に消えていく。

「あいつはお前を欲しがってる」

「は? おま……なに云って……」

 振り仰いだ月夜を、濃い闇の瞳がとらえた。
 思わず言葉を失ったが、ハッとして眉間のシワを深める。

「なにを馬鹿なことを云っている! だいたいなんだ、今のは。まさか本気であいつを殺そうとしたのではないだろうな?」

「駄目なのか」

 雪はしれっと答えた。

「駄目に決まってる! なんの理由があってそんな……やっぱり魔物は所詮魔物か。人間を殺すことをなんとも思っていない――」

 憤慨する月夜を、興味深げに見つめる瞳が静かに瞬く。
 それがまるで無邪気な子供のように見えた。