雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 呪い――。
 その言葉に、月夜ははじまりの神を想像する。
 もしかするとその呪いというのは、神を凌辱した罪の証のことかもしれない。
 王の血筋に脈々と受け継がれてきた贖いの世襲。
 しかしそれでは、王をたてるのには無理があるだろう。

「……ここまでゆうたらもう、わかりますやろ……そうです。王とは名ばかりで、俺はただの道具でしかない。国は実質、女王が統治しとるんです」

「呪い……というのは、王の血族だけが?」

 イシャナは微かにあごを引いた。
 そうでなければ、ナーガ国は今のようには繁栄しない。
 ただ、王族だけがそれを背負ってきたのだ。

「……お前は私に、それを云うためにわざわざ戻って来たのか?」

「そないなわけないやないですか」

 イシャナとの距離が、あと数歩に迫っていた。
 手を伸ばせばいつでも月夜に仕掛けることができる。
 だが、ここで騒ぎをおこせば、確実に宮殿の近衛が駆けつける。
 イシャナに勝ち目はない。

「最後のお願いに来たんですよ俺は……」

「願い?」

 急にイシャナが膝をついて、戸惑う月夜を見上げた。

「なにを……」

「月夜様、俺と逃げて下さい。どうか、何も訊かずに……ついてきて欲しいんや!」

 イシャナの唐突な言葉に、月夜は一瞬声を失い後ずさった。
 何をどう考えればいいのか、思いつく理由は皆無だった。

「ば……馬鹿なことを云うな……なにを訳のわからない――」

「わからなくてええんです。せやけど、月夜様がここにおれば……」

 イシャナのただならぬ様子には、確かになにかがあるようだったが、訊かずにいろなどと云われ、ますます訳がわからなくなる。