宮殿に灯る近衛の松明との狭間にできた薄闇の道で、月夜は遠くに輝く野営の松明を振り返った。
微かに胸騒ぎを感じて首をひねったが、気のせいであろうと宮殿に向き直る。
そして数歩のあと、今度は明らかな人間の息づかいを耳にして立ち止まった。
「月夜様……」
その調子外れの声を、思いがけない場所で訊いた月夜は瞠目した。
「……イシャナ、か?」
名を呼ぶと同時に、宮殿への道の脇に敷き詰められた玉石が鳴った。
人影がゆっくりと近づいてくるのを目の当たりにした瞬間、月夜の脳裏にあの刻の記憶がよみがえる。
「……っ」
反射的に身体を強張らせた。
「待って下さい。何もしませんよって、俺から逃げんといて下さい」
どこか必死にも思える訴えに、月夜は警戒しながらも身体から力を抜いた。
「こんなところでなにをしている? 逃げたのではなかったのか」
ぼんやりと浮かび上がる影に、イシャナの表情を読み取った。
大事な式を失いながら、ふたたび月夜の前に現れ、彼がなにをしようとしているのかはわからないが、敵意や画策めいたものは伝わってこない。
しかし油断はできない。
月夜は密かに、忍ばせてあった護り刀を掴んでいた。
「ええんです……あないなことして……許してもらうつもりもないですよって。やけど……これだけは訊いて欲しい」
「……なんだ?」
松明の灯りが、一歩一歩近づいてくるイシャナの顔を照らす。
その瞳が光を反射した刹那、月夜は息をのんだ。
「お前……その、目は……」
錯覚かと、我が目を疑った。
その右目は、確かにナーガ人だけが持つという玻璃の青緑だった。
しかし左目は、深淵を覗き込んだような……。
微かに胸騒ぎを感じて首をひねったが、気のせいであろうと宮殿に向き直る。
そして数歩のあと、今度は明らかな人間の息づかいを耳にして立ち止まった。
「月夜様……」
その調子外れの声を、思いがけない場所で訊いた月夜は瞠目した。
「……イシャナ、か?」
名を呼ぶと同時に、宮殿への道の脇に敷き詰められた玉石が鳴った。
人影がゆっくりと近づいてくるのを目の当たりにした瞬間、月夜の脳裏にあの刻の記憶がよみがえる。
「……っ」
反射的に身体を強張らせた。
「待って下さい。何もしませんよって、俺から逃げんといて下さい」
どこか必死にも思える訴えに、月夜は警戒しながらも身体から力を抜いた。
「こんなところでなにをしている? 逃げたのではなかったのか」
ぼんやりと浮かび上がる影に、イシャナの表情を読み取った。
大事な式を失いながら、ふたたび月夜の前に現れ、彼がなにをしようとしているのかはわからないが、敵意や画策めいたものは伝わってこない。
しかし油断はできない。
月夜は密かに、忍ばせてあった護り刀を掴んでいた。
「ええんです……あないなことして……許してもらうつもりもないですよって。やけど……これだけは訊いて欲しい」
「……なんだ?」
松明の灯りが、一歩一歩近づいてくるイシャナの顔を照らす。
その瞳が光を反射した刹那、月夜は息をのんだ。
「お前……その、目は……」
錯覚かと、我が目を疑った。
その右目は、確かにナーガ人だけが持つという玻璃の青緑だった。
しかし左目は、深淵を覗き込んだような……。

