「これは……?」

 受け取りながら、天照は不思議そうにそれを眺めた。
 楕円形をした、鈍い光を放つ、金属のような肌触りの小さな石。
 そのまわりを文字が囲んで、中の何かを封じている。

「…鍵です」

 月夜のひとことで、天照の表情は一変した。
 畏怖するような、あるいは強大な力を前に興奮を抑えきれないような瞳の輝き。
 一瞬、月夜の胸を不安がよぎる。

「これが、鍵……? 神を目覚めさせる鍵だと……なぜ月夜殿はそう思ったのだ」

 月夜は首を傾げた。
 天照の云う意味が、飲み込めなかった。
 この石がもし、鍵でないとしたら、いったい何だと云うのだ?
 帝釈天も、これが鍵だといったではないか。

「それは……白童様から、託された刻に――」

 月夜ははたと動きを止めた。
 思い返してみれば、白童はこれを鍵だとは云わなかった。
 ただ、使い方はのちにわかる、とだけ。
 鍵だとずっと思い込んでいたのは、月夜にはそれが鍵だとわかっていたからだ。
 ならばなぜ、そうだとわかったのか?
 突然脳裏に何者かの意思が閃いた。

『――カイホウして』

 感情のない、ただ強い念の塊が弾ける。
 その飛沫が身体の端々に伝播した。

「これは……確かに鍵です。神の……いや、なにかを解放する鍵……神を? 違う、でも違わない。なんだ……これは」

 月夜は混乱した。
 自分がなぜここにいるのか、なぜ鍵を持っているのか、なぜ天照にそれを託そうとしているのか。
 自分で自分がわからなくなってきた。

「月夜殿、落ち着きなさい。望むならこれは大切に預かろう。決して悪いようにはしないから」

 天照は僅かにまなじりをさげた。