雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「……だめじゃ。訊けばきっと、そなたは余を許さぬであろう……そのようなこと、余にはできぬ!」

「どうしたんだ十六夜? なにがあった。なぜそんな……」

 月夜を突き放した十六夜は悲痛な叫びをあげて、寝室に逃げ込んだ。
 扉を閉められ、成す術もなく拒絶された月夜は、こちら側から話しかけるが答えは返らなかった。

「十六夜……」

 しばらく様子を見ていたが、でてくる気配のない十六夜を近衛に任せ、月夜はひとまず宮殿をあとにした。
 しかし、なぜ十六夜は突然、人が変わったようになってしまったのだ?
 なにかを恐れているようだが、それには月夜も関係しているのか、話すのを嫌がっていた。
 嫌な予感がした。
 見えないところで、大きななにかが動いている気がしてならない。
 それはやはり、深いところで神の存在が関わっているように思えた。

「なぜ……こんなことになったんだ? 昔のように、ただ十六夜の傍にいられたら、それでよかったのに……神なんて……いないままで」

 どうにもならないジレンマが、月夜を苛んだ。
 いまも宮の庭に横たわる、屍の群れがさらに追い討ちをかける。
 神などいなければ。
 神さえいなければ――。

「あつっ……な、なに?」

 驚いて懐に手を入れた。
 掴み出したのは、あの鍵だった。
 一瞬だが、それが火のように熱く感じたのだ。
 しかし手を開いてみれば、鍵は何事もなく、ただ冷たく鈍い光を宿している。

「気のせいか……?」

 長い長い刻が、天の色をますます濃く塗り替えていった。


『――だして……』


『――れか……』


『――おねがい……』