雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

――まさか、これがなんの鍵なのか知っていて…?

 じゃれる雪――いまは阿修羅だが――を退かせて、月夜は懐に鍵をしまうと立ち上がって膝を払った。
 理由はどうあれ、雪が拾っていたお陰で鍵を取り戻せた。
 今度はなくさないよう慎重にならなくては。

――だけど。

 ふたたび神がこの鍵を奪いに来れば、月夜は抗わなければならない。
 戦ってでも……勝てないとわかっていても。

――十六夜が、なぜ神を目覚めさせたがるのか、それは理解できる。でも…。

 イシャナの云った、神が堕ちたという話が真実なら、ガルナの神はなぜ堕ちねばならなかったのか?
 そんな神を目覚めさせて、帝釈天と渡り合うことは可能なのか?
 そもそも世界に争いを生んだのは神だ。
 そのようなもの、十六夜はどう扱うつもりなのか?
 考えれば考えるほど、この鍵を使うことが躊躇われる。

「どうすればいい? ボクはどうすべきなんだ…」

「なぁ〜う〜?」

「……雪、いや阿修羅。その姿で舐めるのはやめなさい」

 なんとか阿修羅を部屋にとどめ、月夜は月読の部屋から抜け出した。
 雪を運んだとき、外が酷い有り様になっているのを見てきた。
 神と魔の戦いは式同士の比ではない。
 しかもたったあれだけで、宮の中は半分近くが滅茶苦茶になった。
 あちこち穴だらけになった宮殿への道を、月夜は走った。
 月読たちが倒れていた場所を遠目にして、脚を止める。
 先刻はその惨状に思わず目を逸らしてしまった。
 震える手を握りしめ、類類と横たわる影に注視する。
 助かった者たちは、各々で怪我人を運び出していた。
 ということは、残ったこの者たちは……。