雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 そうでなければ、いくらなんでもこれではふざけ過ぎだ。

「あ…阿修羅っ、お前か?」

「なぁ〜う」

 そうだ。とでも云うように、雪がお座りした。
 嬉々とした目で月夜が撫でてくれるのを待っている。
 おそるおそる雪の頭に手を置くと、それはそれは嬉しそうに喉を鳴らした。

「……なんだか気持ち悪いな」

 見かけはどうみても雪である。
 しかし表情は、獣のままで無表情だ。

――まぁ、あの男も無愛想だったか。

 月夜はやれやれと腰を落ち着けかけて、すぐに思い直した。
 十六夜や月読たちが心配だ。
 怪我人やおそらく死人も出たかもしれない。
 雪と扉とを見比べて、扉を向いた月夜は、帝釈天の言葉を思い出した。

――鍵を、本当に持っているのか?

 雪に向き直り、お座りする彼に近づいた。
 いまは中身が入れ替わっているとはいえ、姿も顔も匂いも誤魔化しようがない。
 月夜はわずかに躊躇いながら、雪の襟に手を忍ばせた。
 盛り上がった逞しい筋肉が触れる。
 自分とは正反対の硬く締まった躯。
 月夜は複雑な思いを抱いて顔を赤らめた。

「あ……」

 明らかに肌触りの違う、硬い金属のようなものが指先に触れた。
 引っ張り出そうとすると、雪の姿の阿修羅が「ふにゃん」と啼いて寄りかかってきた。

「あ、ばか、いまはお前と遊んでる場合では――」

 ふたたび顔を舐められ、押し倒されながら月夜は懐の硬いものをなんとか取り出した。
 確かにそれは鍵だった。
 間違いなく白童に渡された、表面が磨かれぐるりと取り巻くように文字が刻まれた楕円形の石。
 中が開くようになっているが、開いたことはなかった。