雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「な……なんなんだ、今のは……」

 呆気にとられてこの状況を忘れかけていると、急に肩が重くなりよろめいた。
 何事かと振り向いた月夜は、雪が自分に覆い被さっているのを見て目を丸くした。

「な、ど、どうした――」

「……眠い」

「は?」

 つぶやいた雪が、ズルズルと肩からずり落ちていく。
 慌てて支えようとした月夜も一緒に倒れて下敷きになった。

「重い……」


 ◇ ◇ ◇


 雪をそのままにしておくことは出来ず、なんとか月読の部屋まで担いでいった月夜は、扉の前で力尽きた。

「な……なぜボクが……こんなこと……ハァハァ」

 部屋の中にはイシャナもいるはずだった。
 扉を開けて、彼の所在を確かめようとした。
 だが中にはすでに、その姿はなかった。
 月夜は雪を引きずりながら部屋の中へ連れ込むと、やっと寝台の上にのせた。
 自分の倍はありそうな魔物を、ここまで運べたのが不思議なくらいだった。
 切れ切れの息を調え、見下ろしたその顔は驚くほど精悍で、月夜は思わず見入ってしまう。
 雪は静かに寝息をたてていた。

――本当に寝ている…。

 その寝顔を見る限り、この男が魔物だとはとても思えなかった。
 しかしあれだけ激しい戦闘を神相手に繰り広げておきながら、傷ひとついていない。

「やはりお前は……魔物なのだな」

 短く切られた前髪に触れる。
 閉じられたまぶたの向こうに隠された瞳と同じ黒。

――同じ…?

 刹那、脳裏をよぎる違和感。
 それがなんなのか、はっきりとしない心の霞み。
 雪のほほを指でそっとなぞると、胸の中にぽつんと波紋がひろがった。
 ハッとして手を引っ込めた。

「ボクはなにを…」