雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「な……なにが……」

 穴に近づいていくと、頭の上から神の声がした。

「童子か、よいところに来た。そろそろ戯れも終わりじゃ。鍵はどうやらすぐそばにあったようじゃしの?」

「そばに? でも、鍵はなくして……」

 月夜が云いかけたとき、穴から大きな手が伸びて、巨人の雪が這い上がった。
 傷はないが、痛手を負っているのか動きが鈍い。
 神がクツクツと声をたてた。

「貴君ともあろう者が、気をとられてわたくしの一撃を避けられぬとは……お陰でわかったぞ。そこまでして貴君の守る者がなんなのか」

 雪は汚れたあごを拭い、フンと鼻を鳴らした。

「なんのことだ? これは俺の獲物だ。なんと云おうと、お前には髪一本触れさせん」

「そうか。ならば仕方がない」

「……え?」

 いつのまにか背後に迫っていた何者かが、月夜を羽交い締めにした。
 辛うじて振り向くと、なんと先刻天照と共にいた月読であった。
 しかしその目は虚ろで、とても正気とは思えない。
 慌てて振りほどこうとしたが、その前に雪の手が月読の頭を掴んだ。
 そのまま持ち上げられると、月夜から離れて苦しげにもがく。

「殺してはダメだっ」

 月夜の叫びに反応し一瞬動きが止まったが、雪は月読を遠くに放り投げた。
 そこには他の月読も迫っていたが、飛ばされた月読の下敷きになり、誰も動かなくなった。

「何てことを……わっ?」

 今度は月夜が雪に掴まれた。
 と思ったが、それは違った。
 神が放った攻撃から、月夜を庇い自らを盾にしたのだ。
 激しい重圧が二人を襲った。
 力のほとんどは雪の身体に阻まれ、月夜に傷ひとつつくことはなかった。