もうどのくらい歩いたろうか、月夜は精霊の気配をたどって、霊山のかなり奥まで入ってきた。
 暗くてよくわからないが、おそらく境界線まできているはずだった。
 この先の神山には、精霊の生まれる場所があるとされているが、実際にそれを目にした者はいない。
 そもそもこの境界線を越えることができるのは、精霊以外に神と魔だけなのだから、人間が見ることはないのだが。
 月夜はしかし、精霊の気配が神山から強く漂うのを感じ、次第に焦れはじめていた。
 霊山と神山の境界線。
 人間がそれを越えると、神の国ではなく魔の国に迷いこんでしまうという。
 そこには魔属性の精霊や醜悪な魔物が、迷いこんだ生き物の血肉を求めて闊歩しているとか。
 こうして境界線を歩いているというだけで、背筋が総毛立った。

「この向こうになら、精霊がたくさんいる…」

 調伏の訓練で、月夜は自分の持つ属性に気づいていた。
 信じたくはなかったが、それは闇の性質だった。
 ならば、境界線の向こうに月夜の望むものがあることは間違いない。
 だが、たとえ精霊を調伏できたとして、無事にそこから戻ってこられる保障もない。
 かといって、すでに5の月は沈みかけている。
 月夜に許された刻は、あと6の月の一夜だけ。7の月までに帰らなくては――。

「ギャアアア!」

 轟いた獣の声に、月夜は全身をすくませた。
 すぐ近くだ。
 松明をかかげ、辺りの様子をおそるおそる見回す。
 走り出したくても、脚まですくんでうまく走れそうになかった。
 月夜は懐から札を取り出し、いつでも使えるようにギュッと握りしめた。
 そしてふと気づく。

「これは……精霊の?」

 月夜はとうとう、探していたものを見つけた。