「…髪、切ろうかな」
「へ」


いきなり隣で呟かれた言葉に、思わず間抜けな声を出してしまった。


その時俺は、違うことで頭いっぱいで。

その、つまり。すぐとなりで揺れる手を…こう、さりげなーく握るにはどうしたらいーもんかと。

はぐれるから、とか。
手ぇ冷えてんぞ、とか。
歩くのおせぇ、とか。

アホみたいに臭い言い訳が、頭ん中ぐるぐる回る。恥ずかしすぎて言えるわけない。

手をつなぐ、理由とか。

俺たちはその…付き合ってんだから、別にそんなもんわざわざ考えなくていいんだけど。


「会田くん?」
「はいっ!?…や、うん!?」
「…ふふ、会田くんどしたの」


面白い顔してる、と、口元に手をあてて笑う。

その手の、指の、折れそうなほど細いこと。

透明って言ってもいーくらい色の白い肌。少し垂れた目。

でもまわりの空気は、しゃんとしてるっつーか、凛ってしてて。