「この前の花火大会は、行けなくてごめんな」


俺がそう言うと、美奈はシェイクのストローから口を離して、ふんわりと笑った。


「全然いいです!隆博先輩の大事な模試だもの」


あまりデートらしいデートはしたことがないから、花火大会とかそういうイベントくらいは行けたらいいね、と。

そう言っていたのに、模試の予定と被って結局行かずじまいになってしまった。

美奈と付き合うのがもう少し早かったら、と思う。俺が受験生になる前だったら。

俺の高校は、熱心で有名な進学校。

目指す大学のレベルもなかなか高くて。放課後と休日の予定は、学校の補習か部活か模試か、塾の講義で埋まってしまっている。


本当なら、もっといろんな場所に出掛けたいんだと思う。海に、映画に、花火大会も。

でも美奈は文句を一つ言うこともなく、いつも笑顔で応援してくれる。


「隆博先輩って講義ない日も、よく自習室で勉強してますよね?」
「あーうん。家では勉強しにくいんだよな」


弟たちがうるさくてさ、そう言うと、美奈は絵に書いたように目を丸くした。


「隆博先輩て弟がいるんですか?」
「あ、うん。いるよ、二人」
「へぇ~!じゃあお兄さんなんだ」