「これにて今日の講義は終了します」


封を開けたように、室内がザワザワと騒がしくなる。

たった1時間少々黙っていただけなのに、全員が全員、喉の奥に溜まっていた言葉を吐き出したくて仕方なかったようだ。

ガタガタガタ、と一斉に椅子が引かれる音。

バタバタと、慌しく去っていく足音。


それより少し遅れて。カタン、と、ゆるやかに開かれるドアの音。

背後から、ゆっくりと近づいてくる足音。


「――隆博先輩」


後頭部に降る音……声は、夏風に揺れる、風鈴のように。

いつも思う。彼女のまとう音は、全てとても綺麗だ。





20時前のマックは、がらんと空いていた。

窓際のいつもの指定席まで、注文したばかりのトレーを運ぶ。

トレーの上に二つ並んだシェイク。注文するのは、いつもこれだ。帰ったらお互い夕飯が待っているから、ハンバーガーやポテトは頼むことが少なかった。


「隆博先輩、今日もチョコ?」
「うん。って、美奈もいっつもバニラだろ」
「ふふ、そうですね」


美奈の声が、優しく空気を揺らす。だから俺は、自然と笑顔になる。


電車を一本分遅らせて、マックに立ち寄って少し話す。

塾帰りのこの短い時間が、俺たちのデートみたいなものだった。