「仲間の心配をしてる場合じゃないわよ?」
ぞくりと、背中が震えた。
健太郎が、あっさりやられてしまった……。
今度は、俺達だ。
玉藻が、一歩前に出る。
俺と雅は、思わず後ずさった。
「逃げるくらいなら、喧嘩を売るんじゃないわよ!」
くわ、と玉藻の口が大きく左右に別れた。
それは、獣の顔そのもの……。
玉藻は、その口で言葉を放つ。
《動いちゃダメよ》
「……っ!?」
「なんだ、これ……っ!!」
玉藻の声は、先程と全く違う響きを持っていた。
それは俺達のナカに侵食する。
甘い毒に侵されるように、全身が重く、自由に動かない。
「おバカさん!!」
高い声が響き、玉藻が駆け出す。
「っ!!」
風のような速さのそれは、俺達の間を駆け抜ける。
その瞬間、俺の右腕と雅の左腕から、赤い花が散った。
「爪か……っ!」
傷を押さえ、雅がうなる。
その言葉の通り、玉藻の爪はいつの間にか長く、ハサミのように伸びていた。
それが俺達を傷つけたんだ。
「つまんなーい。
迦楼羅、あとは任せるわ。
あたし、帰る」
「無責任な……」
血のついた爪をペロペロと舐めながら、玉藻が言う。
「逃がすものか!」
「恒一!」
深追いはしないはずだった。
しかし俺は、健太郎を傷つけられた事で、冷静な判断ができなくなっていた。
雅の制止を振り切り、まだしびれているような身体を、奮い立たせて。
玉藻に向かい、駆け出した。



