「……行ってきます」



もう言い返すことはせず、俺たちは玄関から出て行く。


その扉を閉めた途端に。


向こうから、すすり泣きが聞こえた。


俺たちはそれを聞かないフリをして、歩き出した。


そうしなければ、不安で歩けなくなるから。


雅だって、健太郎だって。


二人を心配する家族がいる。


もう一度空亡と対峙するのは、正直怖い。


怖くて、仕方がないけど。


自分達を想ってくれる人を守りたい。


絶対、悲しませたくない。


だから、俺たちは戦う。



そして。



絶対に、生きて帰る。



俺は、左手で渚の手をにぎった。


あたたかく、小さな手は。


力強く、にぎりかえしてくれた。



大丈夫。


私がついてるよ、と。



何も言っていない渚の声が、聞こえた気がした。