「違う……!」
「離して!!」
渚は腕の中でもがく。
神の力を出せば、俺なんか簡単に殺せるだろうに。
どうしてか彼女は、そうしない。
背中をかきむしられるのを感じながら、俺は懸命に、言葉を出した。
「違う、違う、違う!
最初は、知らなかった。
龍神剣のことを知ったのは、全員、つい最近なんだ」
「嘘っ!」
「本当だ!本当に、知らなかったんだ。
先祖が、お前にどんなひどい事をしたのかも……」
「ああああああっ!!」
俺の声が聞こえないように。
渚は悲鳴で、それを覆った。
悲鳴は嗚咽に姿を変える。
何事かと駆けつけた雅と健太郎が、ふすまを開けるた気配がしたが。
そこに配慮する余裕は、なかった。
「ごめん、ごめんな。許せないよな」
「うぅぅ……っ」
「……っ」
俺の身体を拒否するあまり、渚はその歯を二の腕に立てた。
鈍い痛みが、そこから広がっていく。
しかしそんなものは、どうでも良かった。
「ごめんな。
けど、俺は本当に、お前を利用しようなんて思ってなかった。
情けないけど、そんな器用な事ができるほど、俺は大人じゃないんだよ……」
「うっ……、うぅ……っ」
渚の噛む力がゆるんでいく。
その瞳は固く閉じられて、涙が次から次へと流れていった。
もう、ごまかしなんかは通じない。
彼女を強く抱きしめたまま、その耳元に本音を囁いた。



