急いで帰ってきた俺を待っていたのは、


ばあちゃんでも渚でもなく、禍々しい妖気だった。



「結界が……っ!」



ばあちゃんの張った結界がなくなっている。


その事に気づき、胸が余計にザワザワした。



「ばあちゃんっ!!渚っ!!」



玄関を開けながら叫ぶが、応答がない。


俺は靴のまま、家に踏み込んだ。


大きな足音を立て、居間のふすまを開ける。


すると、そこには……。



「ばあちゃん……!」



ばあちゃんが、畳の上に横になっていた。


顔は真っ青で、ぶるぶる震えている。



「ばあちゃんっ!!」



頬を叩くと、ばあちゃんは微かに目を開いた。


そして、震える唇で一生懸命何かを伝えようとする。


俺は耳を寄せた。



「私は……大丈夫だ。
妖狐の術に、やられただけ……」


「妖狐!?玉藻か!?」


「恒一……姫様…が…」



ドクン、と胸が跳ね上がる。


一緒にいるはずの渚の姿が、ない……。



「庭だ……頼む、姫様を……」


「……くそっ!」



大丈夫と言っているが、嘘だ。


このまま放置はできない。


俺はスマホを取り出す。


ワンコールで、それは繋がった。



「雅か?すぐ来てくれっ!!」



それだけ伝えると、ばあちゃんの手をにぎった。


いつも温かいそれは、死人のように冷たい。