「龍神の姫」



庭から、声をかけられた。


心臓が、痛いくらいはね上がる。


私の事を、「龍神の姫」なんて呼ぶのは。


玉藻と迦楼羅、二人の妖だけ……。


意を決して、ゆっくりふりむく。


するとそこには、

妖狐・玉藻が雨に濡れて、一人で立っていた。



「……!」



どうしよう。


皆がいないのに。


しかもこの神社の敷地には、結界が張ってあるはずなのに……。



「……どうやって入ったの?」



私はやっと、口を開く。


玉藻は、ニヤリと笑った。



「弱くなってたから、無理矢理破って入ったのよ。

わからなかったの?」


「……そんな!」



結界が弱くなっていた。


それは、結界を張ったおばあ様に、元気がないからだろう。


だけど、私はなんで気づかなかったの?


思わず、唇を噛む。


余計な事ばかり、考えてたからだ……。


人間になる夢なんか見る前に、私にはすべき事があるのに。



「一体、何の用ですか?」



いざとなれば、一対一で戦うしかない。


だけどできるだけ、時間を伸ばそう。


結界を破られた事におばあ様が気づけば、

コウくん達を呼んでくれるはず。



「ふふ……そう警戒しないで。

今日は戦いに来たんじゃないの。

あなたと話をしたくて来たのよ」



玉藻は柔和な笑顔を作る。


しかし、騙されちゃいけない。


妖狐は昔から、人をばかすのがうまいんだ。