雅と健太郎が、頭を抱えてしまった。
何とコメントしていいかわからないんだろう。
俺だって、未だにわけがわからないのだから。
ただ、言える事は。
先祖……御津忠信は、逃げた。
神を人間に落とし、妻にするという重責から。
海神の怒りから。
逃げたんだ。
いや……。
最初から龍神剣が狙いで、渚に優しくしたのかもしれない。
俺と同じ顔、同じ声のあの男が……。
「……じゃあ、龍神剣は渚の身体の中にあるって事かよ」
しばらくの沈黙のあと、やっと健太郎が口を開いた。
「そうだ」
「手に入れるには」
雅が、本に視線を落としたまま、つぶやく。
「渚が好きになった男のために、祈るしかないって事か……」
「なんだそりゃー!
あいつが恋をするように、合コンでもセッティングしろって言うのかよー!」
オーバーヒートした健太郎が、ぷしゅーと頭から煙を出して叫ぶ。
「いや……ババ様が言いたいのはそうじゃないだろう。
ここに、適任者がいる」
雅は、覚悟を決めたように俺を見た。
きっと、雅だって言いたくない事を、言おうとしている。
「過去に渚が全てを捧げた男と同じ顔、同じ声を持ったやつが、ここにいる」
……そうだ。
うなずくと、雅は健太郎に向かって説明を続けた。
「ババ様は、恒一が渚の心を奪うのが、一番早いと思ってる」
「な……っ。
それって、何だよ。
忠信みたいに嘘ついて、渚の気持ちを利用するって事か!?
そんなのひでーよ、ありえねー!」
「健太郎……」
健太郎は悔しそうに、言葉を吐き出した。