俺自身も、信じられなかった。


未だに、信じられない。


信じたくない。


だけど。


二人に、隠しておくわけにはいかない。



「龍神剣は、龍神の“子”だ。

だから、女の龍神に、産んでもらわなければならない」


「……はぁっ……?」


「…………」



肌寒い空気が、ますます緊張していく。


二人は固まったまま、俺の言葉の続きを待った。



「……龍神剣は、龍神の姫だけが産む事ができる剣。


龍神の姫が、自分の意志だけで造りだす子だ。


そこに人間のような男女の交わりは必要ない。


ただ、別の条件がある」


「条件……」


「心から愛する男のためを思って、念じる事。

そうしなければ、龍神剣は産まれない」



俺は、本の最後の何頁かをめくった。



「……ここに、書いてある。


善女竜王……つまり渚は、忠信のために龍神剣を産んだ。


それで空亡を封印した後……」



そこで、一度言葉が切れてしまった。


先祖のした事とはいえ、あまりに辛く、卑怯な行い。


それを話す事で、二人がどんな顔をするか。


恐かった。


しかし、そんな事は言っていられない。


一番辛いのは、俺じゃない。



「空亡を封印した後……。


御津忠信は、

気を失ったままの善女竜王の身体に、

龍神剣を戻し、封印した。


神を妻にする事に、恐れをなして……」



二人が、目を見開いた。



「人間に心を奪われた愚かな姫を、海神も見捨てた。


だから渚は……。

誇り高き龍神の姫のはずが、

あんなところで千年も、ほったらかしにされてたんだ……」