「その方が、いいのかもしれないね。
大切な人たちが年老いて死んでいくのを、私は見ているしかできない。
それなら、いっそ、好きな人と一緒に消えてしまいたい」
渚はうつむいてしまった。
そのまつ毛の影が、俺の胸をぎゅうとしめつける。
俺は、無意識に……
彼女を、抱きしめていた。
「そういうこと、言うなよ……」
「だって……」
鈴の鳴るような声。
柔らかい身体。
ふわりとした、髪の感触。
全てが、俺の胸を鎖のように縛り上げる。
腕の中の渚は、小さな声でつぶやいた。
「好きな人が死んでしまったあとも、永遠に生きなきゃいけないなんて、悪夢だよ……」
また、『忠信様』か。
忠信、忠信、忠信。
俺はいつまで、その幽霊の身代わりなんだ。
その悔しさに奥歯を噛んで、耐えた。
そんなことをぶちまけたって、どうにもなりはしない……。
「ごめんね、コウくん」
渚は自分から、俺の腕から離れていく。
できた隙間が、俺達の心の距離を表しているようだった。
急に寒さを感じる。
「わたしがコウくんをなぐさめようと思ったのに。
おかしいねぇ。だめだねぇ」
そう言うと、渚は洗濯機をのぞいた。
彼女はとっくに脱水が終わった洗濯物を、指でつまんで笑う。
「何これー。ぐるぐるって、絡まっちゃってとれないよー」
「……しょうがないだろ、機械が古いからそうなるんだよ」
力任せに揉まれて、叩かれて。
ぐるぐる絡み合って、取れなくなってしまう。
まるで俺達の運命みたいだ。
どうしたらいいんだろう。
俺はどこまでも弱い人間で。
彼女は、俺に昔の恋人を重ねている、人間みたいな龍神。
わかっていたのに。
いつのまにかこんなに。
好きになってた。
……好きなんだよ。
渚。
俺は、君の事が。
苦しいくらい、好きなんだ。



