「渚……」



振り返らなくても、気配でわかる。


今までになかったすさまじい霊気が、背後で渦巻いていた。


ざあ、と波の音がする。



「……父なる海神よ。
我に力を与えたまえ!!」



大きな鈴の音のように、響く声。


その声と同時に……。


渚の後にあった水の壁が、動き出す!



「くっ……龍神の力か……!」



ほとんどの妖気を放出し、余裕のなくなった迦楼羅がうめいた。


その瞬間を、渚が突く!



「皆、伏せて!!」



ザアアアアアア!!


波が押し寄せるような音がした。


思わず、後を振り返る。



「!!」



背後から近づいていたのは。


波の壁から突き出た、何本もの水の槍(ヤリ)だった。


健太郎が俺の身体を押す。


倒れた俺達の頭の上を、水の槍は高速で通り過ぎて……


炎の壁を、突き抜ける!!



「ぐあああああ!!」


「迦楼羅!!」



迦楼羅と玉藻の悲鳴が響く。


水の槍は、今まで俺達が傷つけることのできなかった迦楼羅の身体を。


何箇所か、傷つけていた。


どす黒い血が、迦楼羅の足元に落ちていく。


彼が地上に崩れた瞬間。


炎の壁も、跡形もなく消えた。