もう、彼等は何も言って来なかった。
俺達は振り返らないようにして、その場を後にした。
「コウくん、どこまで行くの?」
渚に言われ、我に返る。
目の前には校門があった。
そういえば、教室に鞄を置いたままだ。
雅も健太郎もいない。
「あー……戻らなきゃな……」
方向を変え、教室に歩き出す。
「あわてんぼうさんだねぇ」
のんびりした渚の声に、イラッとした。
「お前がボヤボヤしてるからだろ!」
「ふぇっ」
「一人になるなよ。
“させるって、何を?”じゃないだろ!」
「だ、だって、現代語って何でもかんでも略してて、わかんないんだもん!」
……確かに。
って、違う違う。
「あいつ……野田はな、お前と契(チギ)りたいって言ったんだ」
渚にもわかりそうな表現を使ってやった。
すると、彼女は一瞬固まって……。
「のわああああああ!?」
と、叫んだ。
「ち、ちぎ……っ」
顔を真っ赤にし、口をパクパクさせている様子は、
龍じゃなくて金魚だ。
「なな、なんで、歌のやりとりもしてないのに……」
「今はそんなの、しない。
メールはするけど」
「めぇる?」
「あー……とにかく、誰にも油断するな。
一人でいたら、無理矢理やられるぞ」
「ひえぇぇ~……」
渚は今度は真っ青になって、ぷるぷる震えた。
少し可哀想だったが、これくらい言っておいていいだろう。
大体、危機感がなさすぎるんだ。



