そして、次の瞬間、地を這うかのような桐生さんの低い声が発せられる。
「いい加減にしろって……言っただろう。今すぐに彼女から離れろ。汚い手で彼女に触れるな。失せろっ!」
“あの”桐生さんが……怒っている。
無表情で、無関心を思わせるような口調の桐生さんが、怒っている。眉を吊り上げて、大きな声で怒鳴って……怒っている。
そんな桐生さんの手には、空になったガラスコップが握り締められている。
一瞬過ぎてよく見えなかったけれど、桐生さんはコップに入っていた水を、司さんの頭の上からかけたんだ。
「2人とも、落ち着きなさいな!」
事態に気が付いたマスターが、何枚かのタオルを持って来たのだけれど、それに気が付いていないのか、司さんは桐生さんの衿元を掴み上げた。
しかし、無表情のままの桐生さんは、司さんを冷たい目で見下ろしている。
幸い、私と桐生さんの他にお客さんはいないけれど……このままじゃダメだよ、とめなくちゃっ!
でも、2人の威圧感や凄みを目の当たりにしたら、恐怖のあまりに止められなくて、私はオロオロと2人を交互に見ることしか出来ない。
「……冷たい。濡れた身体で俺に触るな」
「アンタが水をぶっかけたからっすよ!」
「俺の忠告を無視し、彼女に触れたお前が悪い」
「だからって!」
「──や、やめてくださいっ!」
やっとの思いで口から出た言葉は、情けないことに震えていた。
「いい加減にしろって……言っただろう。今すぐに彼女から離れろ。汚い手で彼女に触れるな。失せろっ!」
“あの”桐生さんが……怒っている。
無表情で、無関心を思わせるような口調の桐生さんが、怒っている。眉を吊り上げて、大きな声で怒鳴って……怒っている。
そんな桐生さんの手には、空になったガラスコップが握り締められている。
一瞬過ぎてよく見えなかったけれど、桐生さんはコップに入っていた水を、司さんの頭の上からかけたんだ。
「2人とも、落ち着きなさいな!」
事態に気が付いたマスターが、何枚かのタオルを持って来たのだけれど、それに気が付いていないのか、司さんは桐生さんの衿元を掴み上げた。
しかし、無表情のままの桐生さんは、司さんを冷たい目で見下ろしている。
幸い、私と桐生さんの他にお客さんはいないけれど……このままじゃダメだよ、とめなくちゃっ!
でも、2人の威圧感や凄みを目の当たりにしたら、恐怖のあまりに止められなくて、私はオロオロと2人を交互に見ることしか出来ない。
「……冷たい。濡れた身体で俺に触るな」
「アンタが水をぶっかけたからっすよ!」
「俺の忠告を無視し、彼女に触れたお前が悪い」
「だからって!」
「──や、やめてくださいっ!」
やっとの思いで口から出た言葉は、情けないことに震えていた。



