朝がきた。ベランダの向こう側の外は、恨めしいくらいに清々しい朝。そして、私の心は灰色の曇り同然。

 いつまでこんな生活が続くのだろうか。いつまで私はこんな生活をすれば良いのだろうか。

 ──昨日の午後、……私は、桐生さんに力一杯抱きしめられた。

 桐生さんは泣いていた。私に泣きながら「愛してる」と言っていた。その様子はとても……とても必死で、懸命に見えた。

 突然のことに、私の身体は動かなくなっちゃって、だから桐生さんを押し退けることも出来なくて。

 ……こんなこと、絶対にあってはならないのに、私は桐生さんに抱きしめられて……不覚にも安心してしまっていた。どうしてかは分からない。

 私を誘拐して監禁した犯人なのに、抱きしめられて安心するだんて……変だ。私、絶対に変だ。

 まぶたを開けて上半身を起こし、台所の方に目を向けると……そこには、いないと思っていた桐生さんが立っていて、何やら料理をしていた。


「桐生さん……っ?!」


 まさかいるとは思わなくて。いや、ここは桐生さんの家なのだから、いて当然なのだが……私は昨日と同様に、アルバイトに行っていたのだと思っていた。


「……おはよう」


 桐生さんは私の方に顔を向け、いつもの無表情で……それでいて無関心を思わせる口調で挨拶をしてきた。