そう言われた鈴木くんは、……いや、その声音を聴いた鈴木くんは、「ひぃっ!」と小さく情けない声を漏らした。

 そして少し後退りをしたかと思えば、何度も躓きかけながらも逃げるように走り去っていってしまった。

 その場に取り残されたのは私と、私を助けてくれた彼だけ……。

 やっぱり辺りが暗くなってきているせいか、彼の顔や姿をこの目でハッキリと見ることが出来ない。

 でも、分かる。私には分かるよ。彼が、誰であるのか。

 彼が助け出してくれたという安堵感のおかげで、私は恐怖を忘れていた。その時点で、彼と再び出会えた嬉しさの方が勝っていた。

 足に力をこめて立ち上がり、その場に立っている彼を見つめる。少しの間、向かい合っていると、彼はゆっくりと私の方に歩み寄ってきた。

 私は顔にどんな顔を向けたらいいのか分からず、顔を見られないように頭を下げながらお礼を言った。


「あ、あのっ、助け出してくれて、ありがとうございま……――?」


 ――えっ?


 彼は……彼は何も言わず、まるで何事も無かったかのように、ただただ私の横を通り過ぎていったんだ……。