桐生さんは、私と出会い、私を愛し、私を守ったことにより、その誓いは果たせたのだろうか……?果たせたのなら、いいな。


「……しのはら……さん……」

「……?」


 また一段とか細くなる桐生さんの声。

 雨音に掻き消されてしまわぬよう、聴こえるようにただただ両耳に全神経を集中させる。

 一言さえも、一文字さえも、聴き逃してしまわないように、ただ、ただ……集中させる。

 桐生さんの目は、もう光を宿していなかった。雨の降る雲空を、ただその目に映しているだけ。

 魂の抜けた抜け殻のようでもあり、私は、私の目の前から桐生さんがいなくなってしまうんじゃないのかと、恐怖に身を震わせる。

 けれど、それと同時に、そんな桐生さんの姿が美しくも見えた。おかしいな、美しいと思ってしまうだなんて……。美しいだなんて、思っている場合ではないのに……。

 私の両手が握り締める桐生さんの手が、ギュッと握り返してくれたのを感じ取った、その時。

 桐生さんの口から、もう、掠れてほとんど聴こえないその言葉が紡ぎ出される。


「あ……い……して……る……」


 その言葉の共に、桐生さんはゆっくりと目を閉じた。雨音がより一層大きく聴こえる。