「……聞きたくないです」

「篠原さん……」

「あなたの言葉は……もう、聞きたくないです」

「……」


 静かに、桐生さんのことを拒絶した私は、布団を頭から被った。


「……家に、帰りたい……っ」

「……」


 はたして、大きな願望の小さな声が、桐生さんの耳に届いたかのかは分からない。

 それから、私が眠りにつくまで、桐生さんが何かを言うことはなかった。

 まさか……私の“あなたの声は聞きたくない”っていう拒絶を、聞き入れたから?

 それは分からない、けれど……。


「……っ」


 布団の中で丸まった私の両目からは、とめどなく涙が溢れた。

 恐怖と戸惑いが私の頭の中をグルグルと掻き混ぜて、掻き乱して、徐々に思考力を奪っていく。

 ただうるさく、私の頭の中で危険を知らせるサイレンだけが鳴り響く。

 助けて……だれか、助けて。一体、私が何をしたっていうの?どうして私なの?私はこれからどうなるの……?

 これは夢……悪夢なのだと信じ込みながら、泣き疲れたせいか、私の意識は徐々に遠くなっていった……。