「ち、……ちが、」

「そろそろ行かないと……司やマスターに迷惑がかかるな。それじゃあ、行ってくるよ、篠原さん」

「あ……」


 自分の思いを告げようとしたら、桐生さんは家を出ていってしまった。……アルバイトがあるんだし、ここで長居をしているわけにはいかないのは……分かっているんだけれど。

 桐生さんを引き止めようと伸ばした自分の手に驚く。……だから、私は一体何をしているんだ。何をやっているんだ。


(認メタクナイ)


 馬鹿だな、私。


(認メタクナイ、ダケ)


 桐生さんが持って行った、桐生さんと春香さんが写っている写真を思い浮かべる。

 桐生さんの忘れ物って、写真だったんだよね。肌身離さず持っているくらいに、大切な写真なんだ。


「……私……と、どっちの方が大切なのかな……」


 ぽつり。呟く。

 ……はは。だから、馬鹿だな。私。写真を持っているっていうことは、まだ春香さんの方が大切に決まっているじゃないか。

 ……じゃなくて!どうして私はこんなことを考えているのっ?!


(タダ、認メタクナイ、ダケ)


 桐生さんは……犯罪者なのに。


(自分ノ気持チヲ、)

(認メタクナイ……)


 自分の気持ちに押し潰されそうだよ。