廊下の壁にもたれ掛かり、肩を大きく上下に動かしながら息を整える私と桐生さん。
さっきの人……おそらく桐生さんの左目を見て驚いて、「気持ち悪い」なんて言ったんだよね……?
桐生さんの左目って……一体、どうなって──。
──パシッ。
ただの好奇心か、怖いもの見たさか……桐生さんの左目を見ようと手を伸ばした瞬間、桐生さんが私の手を掴んだ。
「……見るな」
「……あの」
「見てはいけない。……見たところで、気を害するだけだ。なんの得もない」
「……確かに、得はないかもしれない。でも、私が気を害するかどうかは、実際に見てみるまでは分からないでしょう?」
私がハッキリとそう言うと、桐生さんは横目に私の方を見た。続けて諦めに似た溜め息を吐くと、左目を押さえている自分の手を退かす。一見、変わったところはない。
「少しでも気を害したら、すぐに目を反らせ」
その言葉とともに、桐生さんの左目がゆっくりと開かれた。
「……っ!」
真っ黒。自分の目を疑うほどに、それは真っ黒だった。決して、眼球そのものが真っ黒なのではない。
──ない。
ないんだ。眼球そのものが、本来あるべき場所のところに。
真っ黒な空洞だけが、そこにはあった。
さっきの人……おそらく桐生さんの左目を見て驚いて、「気持ち悪い」なんて言ったんだよね……?
桐生さんの左目って……一体、どうなって──。
──パシッ。
ただの好奇心か、怖いもの見たさか……桐生さんの左目を見ようと手を伸ばした瞬間、桐生さんが私の手を掴んだ。
「……見るな」
「……あの」
「見てはいけない。……見たところで、気を害するだけだ。なんの得もない」
「……確かに、得はないかもしれない。でも、私が気を害するかどうかは、実際に見てみるまでは分からないでしょう?」
私がハッキリとそう言うと、桐生さんは横目に私の方を見た。続けて諦めに似た溜め息を吐くと、左目を押さえている自分の手を退かす。一見、変わったところはない。
「少しでも気を害したら、すぐに目を反らせ」
その言葉とともに、桐生さんの左目がゆっくりと開かれた。
「……っ!」
真っ黒。自分の目を疑うほどに、それは真っ黒だった。決して、眼球そのものが真っ黒なのではない。
──ない。
ないんだ。眼球そのものが、本来あるべき場所のところに。
真っ黒な空洞だけが、そこにはあった。



