「どうしたの? 珍しいわね、そんなこと面と向かって言うなんて。何か照れるわ」


エプロンで手を拭きながら、優しくお母さんは微笑む。

ゴムで括ってある一つ結びの髪が揺れた。


「…ううん、特に何もないけど…何か言いたくなって」

「そう。沙菜はちゃんと自分のことやってくれるから助かってるわ。
こちらこそ、ありがとう」


ふふ、と笑って私の頭に手をポンと置くと、お母さんは部屋を出て行った。


「………っ、」


目から一粒、溢れ出した雫が零れ落ちた。


――お母さん。


ありがとう。


…ごめんね。