(一)


邪視という民間伝承がある。


その目に睨まれた対象者は呪いないし、災いがあるというそんな話だが。


それにまつわる奇怪な話を一つしよう。


とある片田舎で一人の赤ん坊が産まれた。


ここまでならば、よくある話となろうが、その出産は秘密裏に、医者も産婆も、果ては一切の道具がない豚小屋の中で出産されたならば、それだけでも奇怪であろう。


出産を余儀なくされたと言うべきか。秘密裏――表沙汰にしたくなかったのは、その赤子の実親が父娘の間柄だった故に。


近親相姦などご法度な時代、さすれども、男の欲は尽きぬし、女の脆弱さも変わらない。女は男に逆らえずして、父は娘を自身の慰みものとしていた。


母がいればまた話は違っていたであろうが、いないものを話に加えるわけにもいかない。