あ、と思う間もなくのあっという間。かなり勢いよく踏んだためか、小さな水溜まりめいた僕の体液が跳ねた。
「このガキは俺のだ、てめえには渡さねえ」
タバコの煙でも消すかのようになじる下駄。ざりぃと音を立てたあとに足は退かされるわけだが、その下に、あの中指はなかった。
潰れた残骸なりがあると思ったら、爪の欠片も残っていない。どこにと所在を確かめる前に――藤馬さんが倒れた。
「え……なっ」
「藤馬、おいっ」
盛大に倒れた人を僕と五十鈴さんで両脇から挟むように声をかけた。
右手は相変わらず右目に置いてはいるものの、他の部位はまったく動かないらしい。……つい、藤馬さんの指を膝で踏んづけてしまった僕だけど、反応しないあたり痛覚が狂っているらしかった。


