「……」
生き長らえた。
「ああ……」
前までならきっと、“死に損なった”と思うのに、今は日の光と肺に溜まっていく空気が愛しい。
死に際だからこそ分かる生きている実感。それを最初に教えてくれたのは、あの人だったか。
あの時は生きている実感が湧いただけで他は何も感じなかったのに。
「いき、てる……」
声を出して耳で聞く。
鼓動を感じて、痛みを覚えて、視覚を開かせる。
そんな些細なことが“ありがたい”だなんて、僕は悟りでも開いてしまったのかと笑いそうになった。
嬉しいんだよ、本当に。死地(悪夢)にいた身としては、生(お)きられたことに感動もする。
けれども――
「っ、いすずさ……!」
横たわる彼女を見るなり、青ざめた。
「五十鈴さん、いす……!」
咳き込みながら、腹を這わせて彼女に近づいた。


