中指斬残、捌断ち儀



どんなに異常でも、他に渉を預かってくれるところはいない。


この喜美子は謂わば、貞夫が百々から逃げるための一本の藁なのだ。


藁をも掴みたいながらも、その藁しか掴めない状態では四の五の言っていられないし、仮にもここで今までの話はなかったことに、なんてなったら、離婚の話もなくなるかもしれない。


渉がいるから、と――


そうしてそれは明子の父親に関しても同じことだった。


渉の呪いを、ここ半年あったことで信じきっていた明子の父親とて、喜美子以外の適任者がいない以上、話をなかったことにされては困るのだ。


娘を殴るような男と復縁などさせたくないが、夫婦間の問題は本人同士にある。


もしも離婚の話が、『渉のために』とおじゃんになるようなら、貞夫は土下座でもして明子に取り繕う――いいや、もはやたぶらかすのではないかと、明子の父親は思っていた。