泥水の中に入ったかのような不快感。息を止めても腐臭が鼻腔をなじる。
目をつむる直前、藤馬も呑まれるのを見た。
「――、逃げっ」
五十鈴同様にかき消された声は、果たして藤馬だったのか。
知る術はない。
見聞きが不可能な胃袋の中では、外界のことなど知見できない。
――ただ、この温もりだけは離さない。
腕に抱いた震える少年。
大丈夫、私が守ってやるからな――と言葉にできないからぎゅっと抱きしめたのに。
『わたるぅ、わたるぅ、わたるぅ』
迷い子を見つけた母親が、連れていく。
渡さない、これはお前の子供ではないと拒んでも無駄だった。
だって、これから――


