法律関係に詳しくない貞夫がそこまでのことを推察できたか否かは前に――喜美子が口にした『選ばれた人間』というのが気になって、氏のことなど二の次になってしまった。
「……。失礼ですが、以前に宗教団体に入っていたと明子から聞いたのですが」
『選ばれた人間』はそれ経由かと連想させた貞夫に、喜美子は隠すわけでもなく頷いた。
「ええ、そうです。宗教団体なんて『いかにもな呼び方』はあまり好きではないけど、そう取って頂いて構いませんよ。どうせ、あなたたちなんかでは理解できない超越線の向こうにある組織ですから」
「組織……?」
「ええ、はい。我が、『体幸会』(たいこうかい)はヒエラルキー制を設けてましてね。統治者たる頭冠様(かみかんさま)を一番上に、首花(くびか)、胴元(どうもと)、足成(あししげ)、他は指折(ゆびおり)と言って、あたしは胴元の地位にいます。
そうして旦那が首花の地位に。頭冠様に近ければ近いほど、それだけ人は幸せにもなれるし、体幸会で頭冠様の教えを乞えば、現実社会のしがらみから解放され、新たなる第二の人生を歩めますよ」


