五十鈴さんは人の負の感情に敏感だ。誰かの世話をしたがるお節介とも呼ばれた人だけれども、だからこそ他人の苦しみに勘づきやすい。
本当のことを言って。そんな彼女の言葉――彼女の声だからこそ、より反応してしまう。
「……。大丈夫です。まだちょっと眠いだけで」
崩れない表は、もう何年も培ってきた工作に近い。
バレない、大丈夫。今までだって、一度も本音を――
「……」
“今まで”?
だとすれば、今まで僕は優しくしてくれる彼女を“裏切っていて”。
「……」
「眠いって、朝ご飯は食べたのか?しゃっきりしろ」
まったくと彼女の屈託ない笑顔が、日照りのように眩しい。


