渉のため、渉のため、と全てを我慢してきたけど、言い換えればそれは、『渉がいなければどうにでもなる』ということじゃないか。
自身が耐えて辛い思いをしているのは、渉がいるから頑張れると体のよい言い訳を親だから持てた。
何が、渉のためだ。
渉のせいにしているのと何が違う。
「……」
気持ちが逆立つのを感じた。
どうしようもない父親だと内心では己の罵倒が吹き回るのに対して、結局のところ自分は渉のために何もできなかった。
――してやれなかった。
あれだけ、渉のためと思っていたのに、結末が捨てるとなれば最悪でしかない。
――離婚を機に、貞夫と明子は渉を手離すことに決めた。


